いま日本の電気技術者に何が起きているのか
数字を見ると状況ははっきりしている。電気工事士の有効求人倍率は3.8倍。全業種平均の1.17倍と比べれば、どれだけ人が足りていないかが分かる。建設需要の拡大に加え、再生可能エネルギー設備の導入が全国で加速していることが背景にある。太陽光発電所の新設や既存設備のメンテナンスには、必ず電気の専門知識を持った人材が必要になる。
一方で、全国電気管理技術者協会連合会のデータによれば、会員の66%が66歳以上を占めている。つまり、経験豊富な技術者が次々と引退を迎える一方で、それを引き継ぐ若手が圧倒的に不足している。業界全体が「待ったなし」の状態にあると言っていい。
この人手不足は、働く側にとってはチャンスでもある。資格さえ取得すれば、転職先に困ることはまずない。未経験者を一から育てる体制を整えている企業も増えており、異業種からの参入も珍しくなくなった。茨城県下妻市の柴電設工業のように、第二種電気工事士の資格があれば経験不問で採用し、資格取得支援も行う中小企業は全国各地に存在する。
資格の種類とそれぞれの世界
電気技術者と一口に言っても、その仕事の幅は広い。大きく分けると、住宅やビルの配線工事を担う「電気工事士」と、発電所や工場の電気設備を管理する「電気主任技術者」の二つのルートがある。
電気工事士には第一種と第二種がある。第二種は住宅や店舗など小規模な電気工事ができる資格で、多くの人が最初に目指す入門的な位置づけだ。第一種になると、工場やビルなど大規模施設の工事も担当できるようになる。受験手数料はインターネット申込みで13,000円(非課税)。学科試験はCBT方式が導入され、自分の都合に合わせて受験できるようになった。
電気主任技術者、いわゆる「電験」はさらに専門性が高い。電験三種は発電所や変電所、工場などの電気設備の保安監督を行える国家資格で、再エネ業界では特に重宝される。合格率は例年10%前後と決して易しくはないが、取得すればキャリアの選択肢は格段に広がる。
以下の表に、代表的な資格の特徴を整理した。
| 資格名 | 主な業務範囲 | 受験料(目安) | 向いている人 | 注意点 |
|---|
| 第二種電気工事士 | 住宅・店舗の配線工事、コンセント増設など | 約10,000円 | 未経験からのスタート | 実務経験を積まないと第一種に進めない |
| 第一種電気工事士 | 工場・ビルの大規模電気工事 | 13,000円 | 現場リーダーを目指す人 | 技能試験の難易度が高い |
| 電験三種(第三種電気主任技術者) | 発電所・変電所の保安監督 | 約15,000円 | 設計・管理職志向 | 合格率約10%前後、学習時間の目安は1,000時間 |
| 電気工事施工管理技士 | 工事全体の工程管理・品質管理 | 約20,000円 | マネジメント志向 | 実務経験が必要 |
現場で感じるリアルと収入の話
「電気工事士はきつい」と言われるのには理由がある。夏場の屋外作業は体温を超えるような暑さの中で行うこともあるし、冬場の高所作業は風が骨身にしみる。肉体労働であり、ケーブルの引き回しや重い機器の据え付けには体力がいる。感電や転落といった危険とも隣り合わせだ。
それでも働き続ける人たちは、この仕事に別の価値を見出している。資格手当がつく職場では月に数万円の上乗せがあり、経験を積めば独立開業という道も開ける。第一種電気工事士を取得して独立すれば、年収は大きく変わる可能性がある。実際、Payscaleのデータによれば、中堅の電気技術者(経験5〜9年)の平均年収は約475万円。10年以上の経験者では約580万円に達する。初任給は約330万円前後からのスタートになることが多いが、資格取得と経験を重ねるごとに上昇していく仕組みだ。
再生可能エネルギー分野への転職も注目されている。太陽光発電所の保守管理を担う電気主任技術者は、月額の資格手当に加えて、住宅手当や遠隔地手当が支給されるケースもある。夜間の緊急対応があるため、体力的な負担はあるものの、その分収入に反映される仕組みを持つ企業が多い。
異業種からの転身と学習のステップ
全くの未経験から電気技術者を目指す人も増えている。柴電設工業の事例にもあるように、第二種電気工事士の資格さえ取得すれば、業界未経験でも採用の門は開かれている。異業種からの転職者が最初に直面するのは、専門用語や図面の読み方、工具の使い方といった基本的なスキルだろう。これらは現場で先輩に教わりながら身につけていくのが一般的だ。
電験三種を目指す場合は、独学での学習時間の目安は約1,000時間と言われている。通信講座や通学講座を利用すれば、もう少し効率的に進められる。試験は年に一度だが、科目合格制度があるため、計画的に学習を進めれば数年かけて取得することも可能だ。
具体的な学習の流れとしては、まず第二種電気工事士の学科試験に合格し、技能試験の練習を積む。その後、実務経験を積みながら第一種を目指すか、あるいは電験三種に挑戦するかは、自分のキャリアプラン次第だ。現場で手を動かす仕事が好きなら電気工事士の上位資格を、設計や管理の分野に進みたいなら電験を選ぶ人が多い。
地域によって異なる需要と働き方
電気技術者の求人は全国に広がっているが、地域によって傾向が異なる。都市部ではビルの電気設備管理やテナント工事の需要が高く、地方では太陽光発電所や風力発電所の保守管理の求人が目立つ。関東圏では茨城県や栃木県などに大規模な太陽光発電所が集中しており、現地採用の電気主任技術者を常時募集している企業も少なくない。
関西圏では工場の電気設備管理や省エネ改修の案件が多く、中部圏では自動車関連工場の電気設備工事が安定した需要を生んでいる。北海道や東北では風力発電所の保守管理技術者の需要が伸びている。自分がどこでどんな生活をしたいかを考えて、勤務地を選ぶこともできる時代だ。
これからの電気技術者に求められること
太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギー設備の導入拡大に伴い、電気技術者の役割はますます重要になっている。発電した電気を安定して送り届けるためには、設備の点検や故障対応を的確に行える技術者が欠かせない。SDGsや脱炭素の流れが加速する中で、電気技術者は環境問題の最前線に立つ仕事でもある。
また、IoT技術の進展により、電気設備の遠隔監視システムが普及しつつある。これからの技術者には、従来の電気知識に加えて、データを読み解く力やITリテラシーも求められるようになるだろう。逆に言えば、そうした新しいスキルを身につけた若手技術者には、大きなチャンスが広がっている。
資格を取るかどうか迷っているなら、まずは第二種電気工事士の過去問を一度覗いてみるといい。思ったより身近な内容に驚くかもしれない。電気は私たちの生活のあらゆる場面に存在している。その仕組みを理解し、自らの手で扱えるようになることは、この先どんな時代になっても色褪せない財産になる。