なぜ日本人は頭痛を我慢しがちなのか
日本では約4人に1人が慢性的な頭痛を抱えていると報告されています。片頭痛の有病率は約8.4%、緊張型頭痛は約22.4%とされ、両方の頭痛を併存している人も少なくありません。それにもかかわらず、片頭痛患者の80%以上が医療機関での治療を受けていないのが現状です。
「忙しくて受診する時間がない」「頭痛くらいで病院に行くのは大げさでは」という声はよく聞かれます。特に働き盛りの世代は、仕事を休めず痛み止めを飲みながら出勤し続けるケースが多い。しかし、この我慢が長引くと、市販薬の使い過ぎによる「薬物乱用頭痛」を招く恐れもあります。頭痛は単なる症状ではなく、適切な診断と治療が必要な神経疾患です。
あなたの頭痛はどのタイプ?三つの慢性頭痛の特徴
頭痛のタイプを知ることは、適切な対処の第一歩です。日本頭痛学会の診療ガイドラインでも、まず頭痛の分類が重要とされています。
片頭痛は20〜40歳代の女性に多く、ズキズキと脈打つような痛みが数時間から数日続きます。片側だけに現れることが多い一方、両側性の場合もあります。吐き気や嘔吐、光や音に敏感になる随伴症状を伴い、体を動かすと痛みが悪化するのが特徴です。頭痛の数時間前にあくびや肩こりなどの予兆を感じる人や、視野にギザギザした模様が見える前兆を伴う人もいます。
緊張型頭痛は、頭全体がギューッと締め付けられるような鈍い痛みが特徴で、肩こりや眼精疲労がきっかけになることが多い。デスクワーク中心の生活や長時間のスマートフォン操作で、首や肩の筋肉が緊張し続けると起こりやすくなります。
群発頭痛は比較的まれですが、片方の目の奥がえぐられるような激痛が数週間から数カ月にわたって毎日のように繰り返す、最もつらい頭痛の一つです。男性に多く、痛みのあまりじっとしていられなくなるのが特徴です。
なお、突然の激しい頭痛や、意識障害・麻痺を伴う頭痛、これまで経験したことのない強い頭痛は、脳卒中など危険な病気のサインである可能性があります。その場合は迷わず救急受診してください。
頭痛外来の受診から治療までの流れ
頭痛で悩んでいるなら、脳神経内科や頭痛外来の受診を検討しましょう。近年は全国の主要都市で頭痛専門外来が増えており、地域のクリニックでも対応が広がっています。
受診すると、まず頭痛の性状を詳しく問診されます。いつから始まったか、どのような痛みか、随伴症状はあるかなどを確認し、必要に応じてCTやMRI検査が行われます。危険な病気の可能性を除外した上で、片頭痛や緊張型頭痛など一次性頭痛の診断が確定します。
治療は大きく「発作が起きた時の急性期治療」と「発作を起こりにくくする予防治療」に分かれます。急性期には、市販でも購入できるNSAIDsやアセトアミノフェンに加えて、片頭痛専用のトリプタン製剤が用いられます。トリプタンは頭痛外来で処方されることが多く、保険診療で受けられます。
予防療法は、発作の頻度が高い場合や生活への支障が大きい場合に検討されます。従来の内服予防薬に加えて、近年はCGRP関連薬という新しい選択肢が登場しています。2025年には経口CGRP受容体拮抗薬「ナルティーク」が日本で承認・発売され、急性期治療と発症抑制の両方に使える点が注目されています。これまでのトリプタン製剤で効果が不十分だった人や、副作用が気になる人にも新たな選択肢となっています。
主な片頭痛治療薬の比較
| カテゴリ | 代表的な薬剤 | 特徴 | 保険診療での処方 | 向いている人 | 注意点 |
|---|
| 鎮痛薬 | ロキソプロフェン、アセトアミノフェン | 市販・処方とも入手しやすい | 可能 | 軽度〜中等度の頭痛 | 使い過ぎると薬物乱用頭痛のリスク |
| トリプタン製剤 | スマトリプタン、ゾルミトリプタンなど | 片頭痛の痛みの伝達を抑える | 可能 | 中等度〜重度の片頭痛 | 心血管疾患のある人は使用不可の場合あり |
| ジタン系薬剤 | ラスミジタン | 2022年から使用可能に | 可能 | トリプタンで副作用が出た人 | 比較的新しい薬のため医師と相談を |
| 経口CGRP拮抗薬 | ナルティーク | 2025年発売、急性期と予防の両方に適応 | 可能 | 従来薬で効果不十分な人 | 薬価が高め、医師の判断が必要 |
| CGRP抗体薬(注射) | ガルカネズマブなど | 月1回程度の自己注射で予防 | 可能 | 発作頻度が高い人 | 専門医による評価が必要 |
日常でできるセルフケアと地域の活用術
医療機関での治療と並行して、日常生活での工夫も頭痛の頻度を減らす効果が期待できます。まず取り組みたいのが頭痛ダイアリーの習慣です。発作の日時、痛みの強さ、誘因、服薬内容を記録することで、自分の頭痛のパターンが見えてきます。市販のダイアリーに加えて、無料の記録アプリも多数あるので、続けやすいものを選びましょう。受診時にこの記録を見せると、診断の精度が高まります。
片頭痛の誘因となるのは、ストレス、寝不足、空腹、気圧の変化、生理周期、特定の食品、強い光や音など人によってさまざまです。自分の誘因を把握して、できる範囲で回避することが予防につながります。特に梅雨時や台風シーズンは気圧の変化で頭痛が増える人が多く、天気痛と呼ばれることもあります。気圧の変化が予想される日は無理をせず、睡眠をしっかり取るように心がけましょう。
緊張型頭痛には、デスクワーク中の姿勢改善が効果的です。パソコンの画面を目の高さに合わせ、1時間ごとに首や肩をほぐすストレッチを取り入れましょう。入浴や蒸しタオルで首や肩を温めるのも筋肉の緊張を和らげます。ドラッグストアで購入できる冷却シートや温感パッドも、症状に合わせて使い分けると良いでしょう。
地域のリソースとしては、各都道府県の医師会や日本頭痛学会のホームページで頭痛外来のリストを確認できます。東京都内や大阪、名古屋などの都市部では頭痛専門クリニックが増えており、初診から専門的な検査や治療を受けられる施設もあります。かかりつけ医に相談して、必要に応じて頭痛専門医を紹介してもらうのも一つの方法です。また、職場の健康診断や産業医に頭痛の悩みを相談することで、勤務環境の調整を提案してもらえることもあります。
薬の使い過ぎに注意しながら上手に付き合う
市販の痛み止めをほぼ毎日飲んでいる人は注意が必要です。月に10日以上、3カ月以上にわたって鎮痛薬を使用すると、薬物乱用頭痛を発症するリスクが高まります。これは薬が切れると頭痛がぶり返し、さらに薬を飲むという悪循環に陥るものです。頭痛の頻度が増えていると感じたら、自己判断で市販薬を続けずに医療機関を受診しましょう。
頭痛は完全に「治す」ことよりも、「うまく付き合う」ことが大切です。適切な診断を受けて、発作時の治療薬と予防策を組み合わせることで、多くの人は頭痛による生活への支障を大きく減らせます。新しい治療薬の登場で選択肢も広がっています。つらい頭痛を我慢し続けるのは、もうやめにしませんか。まずは頭痛ダイアリーを始めて、自分の頭痛の傾向を把握するところから一歩を踏み出してみてください。