日本の歯科口腔外科が扱う領域
日本では「歯科口腔外科」という標榜が一般的で、これは歯科医院のなかでも外科的な処置を中心に扱う診療科を指す。大学病院や総合病院の口腔外科と、街の歯科医院にある歯科口腔外科では、対応できる範囲に違いがあるものの、日常的に多くの人がお世話になっている。
実際にどんな症状で受診する人が多いのかというと、親知らずの抜歯が圧倒的に多い。横向きに生えたり、歯茎のなかに埋まったままだったりする親知らずは、普通の歯科医院では対応が難しく、口腔外科への紹介となるケースがほとんどだ。また、顎の関節からカクカクと音がする顎関節症や、口のなかにできた嚢胞の摘出、転倒などで歯を打ったときの外傷治療も口腔外科の守備範囲である。
さらに近年では、インプラント治療を口腔外科で受ける人も増えている。インプラントは顎の骨に人工の歯根を埋め込む外科手術を伴うため、口腔外科の専門医が担当することが多いのだ。
ある40代の会社員、田中さんは下顎に埋まった親知らずを3年ほど放置していた。痛みが出たり引いたりを繰り返していたが、「口腔外科」という響きに抵抗があり、なかなか足を向けられなかったという。しかし痛みで眠れない夜が続き、意を決して受診したところ、思っていたよりずっとスムーズに処置が終わり、「もっと早く来ればよかった」と話していた。こうした声は決して珍しくない。
治療別の比較と目安
口腔外科で行われる主な治療には、それぞれ特徴がある。保険が適用されるもの、自由診療となるもの、治療期間や回復までの時間もさまざまだ。以下の表に整理してみたので、参考にしてほしい。
| 治療内容 | 保険適用 | 費用の目安 | 治療時間の目安 | 回復期間 | 主な注意点 |
|---|
| 親知らず抜歯(単純) | あり(3割負担) | 1,500〜5,000円程度 | 30分〜1時間 | 数日〜1週間 | 腫れや痛みが数日続くことがある |
| 親知らず抜歯(埋伏・難抜歯) | あり(3割負担) | 5,000〜15,000円程度 | 1〜2時間 | 1〜2週間 | 神経損傷のリスクあり、術前検査が重要 |
| インプラント | なし(自由診療) | 30万〜50万円/本 | 数回の通院で合計数時間 | 数ヶ月 | 骨の状態により追加処置が必要な場合あり |
| 顎関節症治療 | 一部あり | 症状により変動 | 1回30分程度 | 数週間〜数ヶ月 | マウスピース製作や理学療法を併用 |
| 嚢胞摘出 | あり(3割負担) | 5,000〜20,000円程度 | 1〜2時間 | 1〜2週間 | 大きさや場所により入院が必要な場合も |
費用はあくまで一般的な目安であり、クリニックの立地や症例の難易度によって変動する。都市部の医院ではやや高め、地方では比較的抑えめの傾向がある。いずれにしても、初診時に見積もりを出してもらうのが確実だ。
受診前に知っておきたいこと
口腔外科を受診するときに、いくつか心構えをしておくと当日の不安が軽くなる。
まず、紹介状があるとスムーズだ。かかりつけの歯科医院から口腔外科を紹介される場合、紹介状とこれまでのレントゲン画像を持参すれば、重複した検査を省けることが多い。紹介状なしで直接受診することも可能だが、初診時の情報収集に時間がかかる場合がある。
次に、健康保険証の持参は必須。口腔外科の治療の多くは保険適用だが、インプラントのような自由診療を希望する場合は、費用の支払い方法についても事前に確認しておくと安心だ。クレジットカード分割払いに対応している医院も増えている。
また、親知らずの抜歯など出血を伴う処置の前には、服薬中の薬について必ず伝える必要がある。とくに血液をサラサラにする薬を服用している人は、主治医との連携が必要になるケースもある。自己判断で服薬を中止するのは危険なので、必ず口腔外科の医師に相談してほしい。
横浜で歯科口腔外科を営むある医師は、「患者さんのなかには"痛そう"というイメージだけで受診を遅らせる方が多いですが、今の口腔外科は麻酔技術も進歩していますし、静脈内鎮静法というリラックスした状態で受けられる方法もあります」と話す。実際、静脈内鎮静法を用いれば、うとうとしているうちに処置が終わるため、歯科恐怖症の人でも比較的負担が少ない。
医院選びのヒント
口腔外科をどこで受けるかは、症状の重さや希望する治療内容によって変わってくる。大学病院や総合病院の口腔外科は、親知らずの難抜歯や口腔がんの診断、顎の骨折など、より専門性の高い症例に対応できる体制が整っている。一方で、待ち時間が長かったり、予約が取りづらかったりする面もある。
街の歯科医院にある歯科口腔外科は、親知らずの抜歯やインプラント相談など、比較的一般的な外科処置を中心に扱うことが多い。通いやすさやアフターケアの手厚さでは、こちらに軍配が上がる。自分の症状がどちらに適しているかは、まずかかりつけの歯科医に相談してみるのが近道だ。
もうひとつ、見落としがちなのがセカンドオピニオンの活用である。とくにインプラントのような自由診療の高額な治療では、複数の医院で話を聞いてから決める人が増えている。医院によって治療方針や使用するインプラントのメーカーが異なるため、自分に合った選択をするための大切なステップだ。セカンドオピニオンを受けることに対して遠慮する必要はなく、むしろ真剣に考えている証拠として、どの医院も快く応じてくれる。
東京都内のある女性は、インプラント治療を受けるにあたり3つの医院を回った。1軒目では即日手術を勧められたが、2軒目では骨の厚みが不足しているため事前に骨造成が必要と言われ、3軒目で納得のいく説明を受けて治療を決めたという。「金額だけでなく、説明の丁寧さや質問への応対の仕方で、信頼できるかどうかがわかった」と彼女は振り返る。
口腔外科は怖い場所ではない。むしろ、口のなかの厄介な問題を根本から解決してくれる場所だ。痛みを我慢したり、不安を抱えたまま放置したりするよりも、まずは一度、話を聞きに行くところから始めてみてはいかがだろうか。かかりつけの歯科医院に相談するか、お住まいの地域の歯科口腔外科を調べてみるところから、その一歩は驚くほど小さく踏み出せる。