なぜ日本人は頭痛を放置しがちなのか
頭痛外来の現場では、「痛みを我慢できるレベルにすればいい」と考える患者さんが少なくありません。仕事や家事を優先して市販薬でしのぐうちに、気づけば月の半分以上を鎮痛薬と一緒に過ごしている、というケースは典型的です。特に20〜40代の女性は男性の約3.6倍の片頭痛有病率とされ、生理周期やホルモンバランス、気圧変化が重なることで発作が起きやすくなります。
日本の気候も頭痛と無関係ではありません。梅雨や台風シーズンには気圧が急激に変動し、内耳の平衡感覚や自律神経の調整機能が乱れることで「気象病」と呼ばれる頭痛が悪化します。デスクワークで首や肩が凝り固まった状態に低気圧が重なると、緊張型頭痛の症状が増幅されることもあります。こうした複合的な要因があるからこそ、ひとくちに頭痛と言っても、その人の生活背景に合わせたアプローチが必要になります。
さらに見逃せないのが「薬物乱用頭痛」のリスクです。鎮痛薬を月15日以上、トリプタン系薬を月10日以上使い続けると、かえって頭痛が慢性化すると言われています。市販薬が効かなくなってきた、飲む回数が増えている、という自覚がある方は、早めに専門医の診察を受けるのが賢明です。
頭痛のタイプ別・治療選択の比較
頭痛を大きく分けると、原因となる病気が見つからない「一次性頭痛」と、脳出血や髄膜炎など病気が原因の「二次性頭痛」に分類されます。一次性頭痛の代表格である片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛は、それぞれ症状も治療法もまったく異なります。以下の表を参考に、自分の症状がどのタイプに近いか確認してみてください。
| タイプ | 主な症状 | 一般的な治療 | 特徴・注意点 |
|---|
| 片頭痛 | ズキズキする拍動性の痛み、吐き気、光・音過敏 | トリプタン製剤、NSAIDs、経口CGRP受容体拮抗薬、CGRP関連抗体薬による予防 | 女性に多く、動くと悪化。予防治療と発作時治療を使い分ける |
| 緊張型頭痛 | 頭全体が締め付けられる鈍い痛み、肩こり・首こり | 鎮痛薬に加え、姿勢指導、ストレッチ、トリガーポイント注射 | デスクワークやスマホ使用で悪化。吐き気はほとんどない |
| 群発頭痛 | 目の奥をえぐるような激痛、涙・鼻水を伴う | トリプタン注射、在宅酸素療法、予防薬 | 男性に多く、鎮痛薬が効きにくい。専門医の管理が不可欠 |
片頭痛の新しい治療選択肢
片頭痛治療はこの数年で大きく変わりました。従来の鎮痛薬やトリプタン製剤に加え、片頭痛の発症に関わるCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)に着目した治療薬が登場しています。2025年には、経口CGRP受容体拮抗薬である「ナルティークOD錠75mg」が日本で承認・発売されました。この薬は発作が起きた時の急性期治療と、発作を起こりにくくする発症抑制の両方に使える点が特徴です。これまで「痛いときに飲む薬」と「予防する薬」を別々に処方されていた方にとって、選択肢が広がったと言えます。
一方で、従来薬で十分な効果が得られない方や、副作用が気になる方、持病の関係で使いにくい方には、CGRP関連抗体薬(エムガルティ、アジョビ、アイモビーグなど)による予防治療も検討されます。こうした薬は保険診療で処方されることが一般的ですが、どの治療が合うかは頭痛の頻度や症状、これまでの治療歴によって異なります。頭痛外来では、問診票と頭痛ダイアリーをもとに、一人ひとりに合った治療バランスを探っていきます。
今日から始められる頭痛対策
1. 頭痛ダイアリーをつけて「自分の頭痛」を知る
頭痛のタイプを正確に診断するには、いつ、どんなときに、どのくらい痛むのかの記録が欠かせません。紙のダイアリーはもちろん、スマートフォンのアプリを使えば、痛みのレベル、天気、睡眠時間、生理周期などを簡単に記録できます。受診前に2〜4週間分の記録をまとめておくと、診断の精度がぐっと上がります。「なんとなく頭が痛い」ではなく、「雨の前日に、左側がズキズキして、吐き気が伴う」と具体的に説明できるだけで、治療方針の立て方は変わります。
2. 気圧変化には「準備」で対応する
天気予報アプリで気圧の変化をチェックし、下がり始めるタイミングが分かれば、その日は無理をせず、睡眠をしっかり取り、カフェインの摂取を控えめにするなど、体に負担をかけない過ごし方を心がけましょう。自律神経のバランスを整えるためには、入浴や軽いストレッチも効果的です。首や肩のこりが強い日は、デスクワークの合間に肩甲骨を動かすだけでも、緊張型頭痛の予防につながります。
3. 受診のタイミングを見極める
頭痛外来を検討すべきサインはいくつかあります。月に2回以上頭痛があり予定を崩す、市販薬が効かない、痛み止めの使用頻度が増えている、初めて経験する強い頭痛がある――そんな場合は、一度専門外来を受診することをおすすめします。日本頭痛学会認定の頭痛専門医がいるクリニックや、脳神経外科・脳神経内科の頭痛外来では、問診と神経学的診察に加え、必要に応じて頭部MRIによる精査も行われます。オンライン診療に対応しているクリニックも増えているため、通院が難しい方は選択肢に入れてみてください。
4. 市販薬の使い方を見直す
「痛くなったら市販薬」という習慣は、一時的な痛みには有効でも、繰り返す頭痛には根本的な解決になりません。薬物乱用頭痛を防ぐためには、鎮痛薬の使用日数を月10日以内に抑えることが一つの目安とされています。もし薬を飲む頻度がそれ以上になっているなら、その時点で医療機関に相談するのが安全です。
地域で探す、頭痛の頼れる味方
東京では赤坂おかだ頭痛クリニックのように夜間診療やオンライン診療を取り入れ、働く世代が通いやすい体制を整えるクリニックが増えています。関西では富永病院の頭痛センターが、思春期の頭痛専門外来やオンライン診療の拡充に取り組んでいます。名古屋の池下駅直結のクリニックでは、MRI検査をその日のうちに受けられる体制を整えているところもあります。「頭痛外来 地域名」で検索すると、最寄りの専門医療機関が見つかるはずです。頭痛は慣れるものではなく、適切にコントロールできる病気です。市販薬に頼る生活から一歩踏み出して、専門家と一緒にあなたに合った対策を見つけてみませんか。