日本人の頭痛はなぜ放置されがちなのか
日本では15歳以上の約8.4%が片頭痛を持つと推計され、30代女性では5人に1人、40代女性でも5.5人に1人が該当します。ところが、適切な治療を受けている人は2〜3割程度にとどまります。「頭痛くらい我慢するもの」という風潮が根強く、痛みを抱えたまま仕事や家事をこなす人が少なくありません。
片頭痛による休業やパフォーマンス低下は、国内全体で年間3600億円から2兆3000億円もの経済損失につながるとの推計もあります。職場で「ちょっと頭痛いんです」と言い出せない空気、飲み会や付き合いを断れないストレス。日本の働き方文化は頭痛を悪化させる要因に満ちています。
知っておきたい3つの頭痛タイプ
片頭痛は頭の片側か両側がズキズキと脈打ち、動くと痛みが強まるのが特徴です。吐き気や光・音・匂いへの過敏を伴い、4〜72時間続きます。女性に多く、生理周期と関連するケースも。
緊張型頭痛は日本人に最も多いタイプで、頭全体がハチマキで締め付けられるような鈍い痛みが続きます。デスクワークやスマホの長時間使用による首・肩のこりが引き金になることが多く、午後になると悪化しがちです。
群発頭痛は片側の目の奥がえぐられるような激痛が数週間から数カ月続くもので、男性に多いとされます。頻度は少ないものの、痛みは非常に強く、早めの専門診療が必要です。
さらに近年注目されるのが気象病(天気痛)。気圧の変化を内耳が感知し、自律神経のバランスが崩れて頭痛やめまいが起こる仕組みで、国内で天気の影響を自覚する人は約1000万人とも推定されています。梅雨や台風シーズンに症状が悪化するのが特徴です。
市販薬に頼りすぎる前に
ドラッグストアにはロキソニンS、イブ、バファリン、タイレノールなど多くの頭痛薬が並びますが、それぞれ有効成分が異なります。イブシリーズはイブプロフェン主体で炎症を伴う痛みに強く、タイレノールはアセトアミノフェン系で胃にやさしいのが特徴。ロキソニンSはロキソプロフェンで即効性が高いとされます。
ただし、ここで注意したいのが**薬物乱用頭痛(MOH)**です。鎮痛薬を月に10日以上、3カ月以上使い続けると、かえって頭痛が慢性化・悪化することがあります。脳の痛覚システムが過敏になり、薬が切れるたびに頭痛が再発する悪循環に陥るのです。「薬がないと不安」「以前より効きにくい」と感じたら、自己判断をやめて専門医に相談しましょう。
頭痛外来の活用法と治療の選択肢
頭痛が月に数回以上ある、日常生活に支障をきたしている、市販薬の使用頻度が増えている——そんな場合は頭痛外来の受診を検討してください。日本頭痛学会の専門医が在籍するクリニックは全国にあり、厚生労働省の医療機関検索や各自治体のウェブサイトで近隣の頭痛外来を探せます。
受診すると、まず頭痛ダイアリーの記録を求められることが多いです。日本頭痛学会のウェブサイトから無料でダウンロードでき、痛みの程度、時間帯、吐き気の有無、使用した薬と効果を4週間記録します。これを続けると自分の頭痛のパターンが見えてきて、診断の精度も上がります。
治療法は大きく分けて、発作時の痛みを抑える急性期治療と、発作の頻度を減らす予防療法があります。急性期にはトリプタン系製剤が片頭痛に有効で、発症1時間以内に服用すると効果が高いとされます。予防療法には抗うつ薬、β遮断薬、そして近年登場したCGRP関連薬があります。CGRP関連薬は日本神経学会や日本頭痛学会の専門医でなければ処方できませんが、月に数回の自己注射で発作頻度を大きく減らせる新しい選択肢です。
タイプ別の主な対策と目安
| 頭痛タイプ | 代表的な対処 | 特徴 | こんな人におすすめ |
|---|
| 片頭痛 | トリプタン系処方薬、CGRP予防薬 | ズキズキする拍動性の痛み、吐き気を伴う | 月に数回以上発作があり仕事に支障がある人 |
| 緊張型頭痛 | 姿勢改善、頭痛体操、漢方薬 | 締め付けられる鈍い痛みが続く | デスクワーク中心で首・肩のこりがある人 |
| 群発頭痛 | 高濃度酸素吸入、専門診療 | 目の奥の激痛が数週間続く | 夜間に激痛で目が覚める人 |
| 気象病 | 耳マッサージ、気圧アプリの活用 | 雨の前日や梅雨に悪化 | 低気圧の日に決まって不調になる人 |
今日からできるセルフケア
頭痛のタイプがおおよそ分かったら、できることから始めましょう。
痛みが出る前に動く。片頭痛の場合、閃輝暗点などの前兆を感じたら早めに薬を飲むのが鉄則です。我慢してピークに達してから飲むと効果が半減します。
首と肩の緊張をほぐす。緊張型頭痛には、デスクワークの合間に首をゆっくり回したり、肩甲骨を寄せたりする簡単な体操が効きます。入浴で血行を促すのも効果的です。
頭痛ダイアリーをつける。痛みの記録は、自分にとっての引き金(睡眠不足、ストレス、生理、気圧変化)を見つける手がかりになります。最近は気圧の変化を通知してくれるアプリもあり、天気痛対策に役立ちます。
漢方薬という選択肢。葛根湯や釣藤散などの漢方薬が頭痛の軽減に有用な場合があります。市販品もありますが、体質に合うかどうかは専門家の判断を仰ぐのが安心です。
専門医にかかる目安
「いつもの頭痛」だと思っていても、注意すべきサインがあります。突然の激しい頭痛、発熱や意識障害を伴う頭痛、進行性に悪化する頭痛、50歳以降に初めて起こる頭痛——これらは二次性頭痛の可能性があり、脳神経内科や脳神経外科の受診が必要です。また、月に10錠以上の鎮痛薬をコンスタントに飲んでいる場合も、薬物乱用頭痛のリスクがあるため専門医に相談してください。
頭痛は我慢するものではなく、正しく対処できる症状です。タイプを見極め、必要なら専門医の力を借りて、痛みのない日常を取り戻しましょう。まずは頭痛ダイアリーを1週間つけてみることから始めてみてはいかがでしょうか。