日本の頭痛事情と見落とされがちな落とし穴
片頭痛は単なる「痛み」ではなく、吐き気や光・音・においへの過敏を伴う神経疾患だ。日本の調査では、患者の約4割が中等度から重度の発作間期症状(頭痛がない日にも続く不調)を経験していると報告されている。にもかかわらず、医療機関を受診しないまま市販薬だけでやり過ごしている人が多いのが現状だ。
特に注意したいのが薬物乱用頭痛だ。日本頭痛学会の基準では、市販のNSAIDs(ロキソプロフェンやイブプロフェンなど)を月10日以上、3か月以上使い続けるとリスクが高まる。薬が切れるたびに頭痛がぶり返す悪循環に陥り、「以前より薬が効かない」と感じ始めたら危険信号だ。自己判断で急に薬をやめるとかえって症状が悪化するため、頭痛外来の受診が勧められる。
もうひとつ日本特有の悩みが**気圧頭痛(天気痛)**だ。日本では約1000万人以上が気圧の変化による頭痛を経験していると言われる。低気圧が近づく前日から頭が重くなり、台風のように急激に気圧が下がると症状も強く出やすい。内耳の気圧センサーが過敏に反応する人がおり、天気予報アプリの気圧情報をチェックして早めに対処するのが有効だ。
治療の最前線:CGRP関連薬という選択肢
片頭痛の治療は大きく「発作時の治療」と「発症予防」に分かれる。従来はトリプタン系薬剤が発作時治療の中心だったが、血管を収縮させる作用があるため、心筋梗塞や脳梗塞の既往がある人には使えなかった。そこに登場したのがCGRP関連薬だ。
CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)は片頭痛の発作中に血中で増加する物質で、痛みの伝達に関わっている。これを抑える薬として、まず注射タイプの予防薬が登場した。4週に1回または12週に1回の皮下注射で、毎日の服薬が不要なのが特徴だ。
そして2025年12月、画期的な経口薬が日本で発売された。**ナルティークOD錠(一般名:リメゲパント)**は、発作時の治療と発症予防の両方に使える国内初のCGRP受容体拮抗薬だ。血管収縮作用がないため、心臓や血管への負担が少ない。臨床試験では、服用2時間後の痛み消失率がプラセボ群より有意に高く、予防として隔日服用した場合、月間片頭痛日数が平均4日から2.9日に減少したと報告されている。
| 治療薬 | タイプ | 投与方法 | 特徴 | 自己負担の目安(3割) |
|---|
| ナルティークOD錠 | 経口CGRP受容体拮抗薬 | 発作時に1錠/予防は隔日1錠 | 治療と予防の両対応、血管収縮作用なし | 薬価1錠あたり2,923.2円 |
| エムガルティ | CGRP結合型注射薬 | 4週に1回、皮下注射 | 国内で最も早く発売、初回2本投与 | 初回約13,000〜15,000円、以降7,000〜8,000円 |
| アジョビ | CGRP結合型注射薬 | 4週に1回または12週に1回 | 通院回数を減らせる | 1回約7,000〜8,000円(4週間隔) |
| アイモビーグ | CGRP受容体結合型注射薬 | 4週に1回、皮下注射 | 受容体に直接結合する点が特徴 | 1回約7,000〜8,000円 |
「トリプタンが効きにくくなって困っていた」と話すのは、都内で働く38歳の佐藤さん(仮名)。「ナルティークに切り替えてから、発作時のつらさがだいぶ軽くなりました。飲み薬なので通院の負担も少ないです」。一方、大阪のいわた脳神経外科クリニックでは、CGRP予防薬を使い、発作日数だけでなく光過敏や不安などの発作間期症状も含めて2か月ごとに評価する治療方針を取っている。治療の目標は「頭痛の日数を減らす」から「片頭痛の影響を受けない生活を取り戻す」ことへと変わりつつある。
日常生活でできる頭痛対策
治療薬だけでなく、日常の工夫も頭痛の頻度を左右する。
頭痛ダイアリーをつける。発作の日時、痛みの強さ、前兆、食事、睡眠、気圧の変化を記録すると、自分なりの誘因が見えてくる。最近はスマートフォンのアプリで簡単に記録できるものも多い。受診時にこの記録を見せれば、医師も診断や治療方針を立てやすい。
気圧の変化に備える。雨の前日に頭痛が出やすい人は、天気予報アプリの気圧情報を習慣的にチェックしよう。低気圧が近づくタイミングで早めに休息を取る、耳まわりのマッサージをするなど、発作を軽くする工夫ができる。
女性は月経周期を意識する。片頭痛は女性ホルモンの変動と関係が深く、月経前後に発作が増える人が多い。つらい場合は婦人科で低用量ホルモン剤や漢方薬について相談するのも選択肢だ。職場の生理休暇制度を上手に使うことも大切だ。
市販薬は早めに、しかし使いすぎない。痛みが軽いうちに飲む方が効果的で、我慢してから飲むと効きにくい。ただし月10日以上の使用は薬物乱用頭痛のリスクがあるため、それ以上薬が必要になるようなら専門医の診察を受けてほしい。
頭痛外来の探し方と受診のタイミング
「頭痛ぐらいで病院に行くのは大げさ」と思うかもしれないが、以下のような症状がある場合は早めに受診したほうがいい。
- 突然、これまでに経験したことのない激しい頭痛
- 発熱や首のこわばりを伴う頭痛
- 手足のしびれや言葉のもつれを伴う頭痛
- 50歳を過ぎてから初めて起きた強い頭痛
- 市販薬が効かず、月に何度も頭痛が起きる
頭痛外来は脳神経内科や神経内科の専門外来として全国にあり、東京だけでも26以上の医療機関が紹介されている。ネット予約やオンライン診療に対応しているクリニックも増えており、仕事の合間に受診しやすくなっている。日本頭痛学会のホームページでは、各都道府県の頭痛専門医を検索できる。
片頭痛は我慢する病気ではなく、適切な治療で十分にコントロールできる。新しい経口薬の登場で選択肢も広がった。まずは自分の頭痛のタイプを知ることから始めてみてはいかがだろうか。気になる症状があれば、一度専門医に相談してみることを勧めたい。